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光化学反応・光物理過程のポテンシャルエネルギー面からの理解

ポテンシャルエネルギー面[PES]は分子内の電子のエネルギーを核座標を変数として表示した関数である。 分子のハミルトニアンのうち、核座標と電子座標が変数分離できると考えると、核の運動はPES上の古典力学的な運動と近似できる。 室温程度における”普通の”化学反応では最低エネルギー固有値の状態しかとらないので一枚のPESで議論できる。
一方、光化学反応では、電子励起状態を経由しているので、より高いエネルギー状態のPESも考慮する必要がある。
一般に、蛍光や燐光はそれぞれ一重項第一励起状態(S1状態)、三重項第一励起状態(T1状態)での極小点の周りで起こる。 一方、無輻射失活は二つの状態のエネルギー差が近い領域で起こりやすい。したがって、PESの交差点(crossing point:CP スピン多重度の同じ状態同士のCPを特にconical intersection:CIという)の周りが重要である。
多配置SCF(MCSCF)法や、Spin-Flip TDDFTなどの電子状態計算手法を用いて、PESの交差点を計算し、光化学反応に加え、消光における無輻射失活の経路を調査している。

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凝集誘起発光を示す分子の動作機構の解析と分子設計

 典型的な色素は希薄溶液では蛍光量子収率が高くても、分子が凝集してくると蛍光量子収率が低下してくる。 蛍光を近くの分子が吸収したり、近接分子間の分子軌道の重なりにより無輻射失活するからだと考えられている。
 一方で、凝集誘起発光(Aggregation Induced Emission:AIE)を示す分子は希薄溶液でほとんど光らないのに対し、 凝集時には蛍光量子収率が増大する。このメカニズムについて、分子が整列することによる電場が効果的であるとする説もあるが、結晶化は必ずしも必要ないことから、我々は凝集による空間的な制約が無輻射失活を妨げているのではないかと考えている。
 実際、AIEを示す分子について円錐交差の構造を計算すると、大きな構造変化が起こっていることがわかった。このような変形が凝縮により妨げられ、無輻射失活が遅くなることにより蛍光量子収率が増大すると考えられる。

 そこで我々は、円錐交差への到達可能性を制御することで発光性をコントロールできるのではないかと考えた。二重結合を持つ分子において、Twistd Pyramidal型の円錐交差はよく見られる。そこで、無輻射失活を起こす反応座標であるTwist角を構造的に制御することを目指し、一連の架橋スチルベンを考案した。
計算されたポテンシャルエネルギー面から、五員環による強固な架橋は強い発光を、七員環による緩やかな架橋は無輻射失活を起こしやすいことが示唆された。実際に合成された分子において、架橋が緩やかであれば溶液中で無輻射失活が起こり発光量子収率が小さくなること、設計された分子が実際にAIEを示すことが確認された。

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